銀色の冷たさにくちづけを



「・・・日番谷くん、いる?」

軽く部屋の戸を叩いて、雛森は彼の名を呼んだ。
灯りすらついていない部屋の中からは、返事はおろか物音一つさえ返ってこなくて。
もしかしたらまだ帰ってないのかも、と一瞬考えたけど、
かろうじて感じられるこの霊圧は、確かに日番谷のもので。
ということは、確実に部屋の中にいるはずなのだ。
どうしようかほんの少しだけ悩んだ末、雛森は再び部屋の主に向かって言葉を紡いだ。

「日番谷くん、入るね」

気持ちゆっくりと戸を開けた。
すると日番谷は確かに中にいたが、部屋の隅に座って微動だにしていなかった。
ゆっくりと傍に近づいてみると、日番谷は寝息をたてていた。
手に持ったままの書類と、何枚か散らばってる床の書類から察するに、
おそらく帰ってきて報告書を作成しているうちに眠ってしまったのだろう。
雛森はそっと、隅に置いてあった毛布を取ると日番谷に掛けた。

「もう、いつも何も掛けないで寝ちゃうんだから」

雛森は昔を思い出して少しだけ苦笑した。
流魂街にいた頃は日番谷の方が寝るのは遅かったのだけれど、たまに彼の方が早い時もあって。
そういうとき、日番谷は大抵何も掛けずに眠っていた。
だから、雛森が風邪をひかないようにと彼に毛布をかけてあげていたのも、
今となればどこか懐かしい思い出だったりする。

「すっかり体も冷えちゃってるし・・・今回の任務、そんなに大変なものだったのかなぁ・・・」

任務で現世に行くというのは聞いていたけど、そういえば詳しいことは何も聞いていない。
見たところ特に目立った傷はないし、死覇装にも破れているところは見当たらなかった。
だから、彼の実力からしてもそれほど大変な任務だったわけではない気がする。
明日会ったらちゃんと聞こう、そう思って雛森は一人頷いた。

「そろそろ・・戻ろうかな」

本当は少しだけでもいいから話をしたかったのだけど、眠ってしまっているのでは仕方がない。
雛森はぽつりと静かな声で呟くと、そっと日番谷の額にくちづけた。

明日は、いつもの元気な姿が見られますように。

そう願って、雛森は静かに日番谷の部屋を出た。



07.02.22

タイトルは ontology より

眠ってしまったあなたに、そっとくちづけを。

こういう時もあったらいいな、なんて思って。