ほろ苦いコーヒーに、砂糖を一つ


「また、ブラックコーヒー?」

日番谷が運んできたブラックコーヒーとミルクティーを見て、雛森は少し顔をしかめ、
どこか心配そうな表情でそう言った。

「別に構わねぇだろ。どうせ飲むのはお前じゃねぇんだし」
「そうだけど・・・。でも、いつもコーヒーばっかり飲んでちゃ体に悪いよ」
「はいはい」
「もう、日番谷くん!」

投げやりな日番谷の態度に、怒ったかのように雛森がそう言った。

「カフェインを取りすぎると、体によくないんだよ」
「別に取りすぎてねぇだろうが」

たった一杯のコーヒーで取りすぎるなんていうわけはないのだが、
向かいに見える雛森の顔は真剣そのもので。
どうするものかと思ったその時。
真剣だった表情を微笑に変え、雛森は一言日番谷に言った。

「たまには糖分も取らなくちゃだめだよ」

雛森の声と共に聞こえたのは、ぽちゃんという音。
見れば、雛森のカップに添えた角砂糖が一つなくなっている。

やられた、という表情で雛森を見ると、雛森は満足そうに笑っていた。

「おまえな・・・何勝手に人のに入れてんだよ」
「だって、カフェインを取りすぎると体によくないんだよ。だから、少しでも緩和しなくちゃ」
「だからって・・・」

言いかけた言葉は途中で途切れた。
反論しようとした途端、雛森が微かに悲しそうな顔をしたからだ。
これくらいのことで、悲しませるのはいくらなんでも忍びない。
日番谷は一つ大きな溜息を吐くと、目の前のコーヒーを一気に飲み干した。

「・・・これでいいんだろ?」

目の前でどこかきょとんとしている雛森に、日番谷はそう言った。

「うん。ありがとう、日番谷くん」

雛森はにっこりと笑ってそう言った。



07.04.29

角砂糖一個分、心に広がる甘さ。

こういった些細な争いに勝つのはいつも雛森の方で。
日番谷はこう、怒る前に泣きそうな顔されると弱いと思います。

タイトルは SWEET DOLL より