笑顔の仮面を顔に貼り付けた



「あ・・・」

目の前の廊下の角を曲がってきた人を見て、雛森は思わず立止まった。
目の前にいるのは、記憶にあるのと変わらない白銀の髪の人。
今最も会いたくて、でも会いたくない、人。

このまま回れ右をして戻ってしまおうか。
ちらりとそんな考えが頭をよぎったけれど、雛森がそうしようとする前に、
彼はこちらに気づいて、名を呼んだ。

「・・・雛森か」

あの時以来、久しぶりに聞いた声に、あの日のことを思い出して胸が痛んだ。
あの人の手紙を、言葉を信じて、刀を向けた。
それが、偽りであるなんて信じようとせずに。

合わせる顔など本当はない。
でも、こうやって出会ってしまった。

「うん・・・久しぶりだね、日番谷くん」

ちゃんと笑えているだろうか。
彼を前にして、以前だったら自然に笑顔が零れてきただろう。
でも、今は。
今は、以前とは違う。
どんな顔をしていいのかがわからなくて。
無理矢理にでも笑うことで、出来てしまった心の距離を、少しでも縮めたかった。

「だな。つーか、オメーちゃんと寝てるのか?
この間と全然変わってないじゃねぇか、その目の下」

以前と変わらないその態度に、密やかにほっとして、苦笑気味に今の状況を話した。

「ちゃんと寝てるよ。でも、色々仕事が溜まっちゃってるから・・・」
「そうか。・・まあ、無理はすんなよ。そんな状態で無理されても、下が困るだけだからな」

いつもの尊大な物言いに少しだけ苦笑しながら、
内心でそのとおりだろうなと、雛森は頷いた。
あの人がいなくなってしまった今、自分がしっかりするしかないないのだ。
その為には、倒れるまで根を詰めるわけにはいかない。
ちゃんと、休息もとらなくてはいけないのだ。
そのことをちゃんと示し、諭してくれたことが少しだけ嬉しかった。

「うん・・そうだよね。気をつける」
「ああ」

雛森のその言葉に安心したのか、少しだけ彼は微笑んだ。

「・・・じゃあな。ちゃんと寝ろよ」
「わかってる。ありがとう」
「おう」

そう言って去って行った背中を、雛森はじっと見つめた。
あんなに近くにいて変わらないと信じていた背中が、どこか遠く、前とは違うものに感じられた。



07.08.08

タイトルは SWEET DOLL より

仮面を被った。心を無視するために。

二人に画面越しだけでなく、直接再会して欲しくて。
藍染の反乱直後の二人は、今までと同じように接することが出来なくなって、
これまではなかった微妙な距離感が出来てしまってそうだな、と。