やさしい夢に零れ落ちるものは



「・・・やっと起きたか」
「隊長。・・・あれ、何でいるんです?」

隊長は確か八番隊まで書類を届けに行っていたはず。
なのにどうしてここにいるのだろう。
そう思って問いを口にしたが、その途端今まで見ていた夢を思い出した。

「何でって、戻ってきたからに決まってんだろ。
おまえは人がいないからって堂々と執務室で寝てんじゃねぇ」
「はぁ・・すみません」
「・・・まあ、いい。それよりこれ、やっておけよ」

隊長が指差した先にあったのは未処理のものだと思われる書類の山。
その多さになんだかやる気も起きなくて、乱菊はふと思いついた質問をぶつけてみた。

「・・・ねぇ、隊長」
「何だ」
「幸せな夢、って見たことありますか?」
「突然何だ」

日番谷は困惑の表情を浮かべて乱菊の方を見た。
当然だろう。唐突によくわからない質問をぶつけられたのだから。
それでも、乱菊は日番谷の答えが知りたかった。
乱菊とは違う、明るい道を歩んできた彼の答えを。

「・・・ま、見たことがないとは言わないっていうところだな」
「そうですか・・・」
「幸せな夢だったのか?」

その質問に一瞬思考回路が止まった。
それくらい、その質問は意外だった。

「はい?」
「さっき寝てた時のだ」
「ああ・・・。まさか、全然違いますよ」

そう、幸せではなかった。
あの頃の自分とあいつが楽しそうに笑い合ってる、ただそれだけのこと。

「そうなのか?」

少しだけ、意外そうで怪訝そうな表情で隊長は問いかけてきた。
たぶん、だったらどうして「幸せな夢」なんて聞いてきたのかと思っているのだろう。

「そうです」
「・・・そうか。じゃあ、俺は六番隊と二番隊にこれを届けに行って来るからな。
それ、七時までに終わらせておけよ」

それ、というのは先ほど隊長が指差した、
自分の机に高く積み上げられたあの未処理の書類の山のことだろう。
残り時間を確認しようと、乱菊は掛けてあった時計を見た。

「・・・・あと一時間ちょっとしかないじゃないですか」
「寝てたおまえが悪い。あとよろしくな」

そう言って、さっさと隊長は必要な書類だけを持って、執務室を出て行ってしまった。
入り口を見て、さっさと出て行った背中を睨んでみたけど、そんなことをしていても仕方がない。

さて、この山をどう崩していこう。
そう思いながら一番上にあった一枚を取り上げた。

「・・・あら?」

視線の先にあるのは、まだ処理のされていない書類ではなくて、既に処理されたものだった。
もしかして、と思って下の書類を同じように何枚か見てみると、これも既に処理してあるもので。

「隊長って、ほんと優しいわね・・・」

軽く微笑しながら乱菊はそう呟いた。
このことから察すると、この山はたぶん全てが処理済のものだろう。
あとはきっと、期限を確認してどの隊宛なのか分類するだけでいいのだろう。

隊長のさりげない優しさが身に沁みて、
何故だかまた違う優しさをもっていたあいつを思い出した。



06.12.30

何気ない優しさ。思い出されるのは、さりげない優しさ。

藍染の反乱後の二人。
乱菊さんはやっぱりギンを想っていると思って。
どうなっちゃうのかなぁ・・・。