眠り姫


「現世、か」

日番谷は自室で一人そう呟いた。
つい先ほど下された一つの命令。
それは、『破面』との本格戦闘に備えて現世に入り死神代行組と合流せよ、というものだった。
現世に行くのは別に構わない。
死神代行組と合流し、『破面』との本格戦闘に備えるということも。

ただ、未だ眠り続ける彼女が気になるだけで。

溜息を一つ吐いて、やりかけの仕事を終わらせようと、書類の方を向いたその時。
ふと、一冊の本が目にとまった。

「これ・・・・」

懐かしい記憶と共に彼女の楽しげな声が脳裏によみがえった。







「はい、これあげる。ちょっと遅くなっちゃたけど、入学のお祝い」

いつものようににっこりと笑って、彼女は大事そうに持っていたものを日番谷に渡した。

「・・・・・何だよ、これは」
「え?見てわからない?」

わからないわけではない。
それはしっかり本の形をしているのだから。
でも、その表紙に書かれている題名は。

「眠り姫、ってなんだよ」
「物語なの。あたしも最近知ったんだけどね、けっこう素敵なんだよ」
「・・・だからって何で・・・」

こんなもの寄こすんだ、という言葉は彼女の楽しげな一言にかき消されて消えた。

「読んでほしかったから。シロちゃんにも読んでもらいたかったの」
「そうかよ・・・・」
「そうなの」

どことなく嬉しそうに、そう言って彼女は笑った。








「眠り姫、か・・・・」

懐かしき思い出に彩られるこの本。
あの時にっこりと笑って本をくれた、眠り姫のように眠り続ける彼女は、
一体今どんな夢を見ているのだろう。

それが幸せなものであることを強く願った。



06.06.26 (06.04.21 Diary)

眠り姫は目覚めない

現世に行く前には、こういうことを思っていたんじゃないかな、と。