Persist indefinitely in time, we will.


「吉良!」

年越しの宴会の途中、用を足すと言って出てきた廊下の先で、
恋次は金の髪をした友人を見つけその名を呼んだ。

「何見てたんだ?」

先程まで吉良はずっと空を見上げていた。
今日は雲が全然出ておらず、空では星が燦然と輝いている。
その中に何か珍しいものでもあったのかと思い、恋次はそう問うた。

「ああ、星をね、見てたんだ」
「星?」

何でまた。
恋次が思わずそう思ったのが表情に出ていたのだろう。
吉良が苦笑気味にその理由を話す。

「ほら、普段はあまり星が出てるかとかって気にならないけどさ、
こう、ふとした瞬間にキラキラ輝いてるのを見つけると何だか魅入っちゃうんだよね」
「ふーん」

そういうものなのだろうか。
恋次は星になんてほとんど興味がない。
だから夜空を見ても特に思うことはないのだが、ルキアは違った。
地獄のような犬吊での日々の中、ルキアは時折じっと夜空を見つめることがあった。
何故なのかと理由を訊ねたこともあったが、よくわからない、というのがその答えだった。

ルキアは赤子の頃に実の姉によって犬吊に置いて行かれたというから、
現世での習慣というわけではないはずで。
藍染さんの起こした反乱の後、ルキアと朽木隊長は少し打ち解けたらしく、
たまにルキアの実の姉だという隊長の亡くなった奥さんの話をするという。
恋次には詳しいことはわからないが、もしかしたらその人が空を見るのが好きだったのかもしれない。

「興味なかったかな。すまない」

考えごとにふけって黙り込んだ恋次の姿を機嫌を悪くしたと取ったのか、
吉良が申し訳なさそうに謝る。
それに勘違いさせてしまったようだと気付き、恋次は慌てて首を振った。

「ああ、イヤ、そんなことねぇよ。ちょっと考えごとしてたんだ」
「・・・朽木さんのことかい?」

微笑しながら吉良がそう訊ねてくる。
まさにその通りで、そんなにわかりやすかったのかと、思わず首を捻った。

「そういえば彼女、今日は姿が見えなかったけど・・・」
「ああ、今年は現世で過ごすってよ。あっちの年越しがどんなものなのか、
実際に体験してみたいってことらしいぜ」

吉良はその言葉に納得したようで、軽く頷くと、そうなんだ、と呟いた。

「今まで思いつきもしなかったけど、ちょっと興味がわくね」
「そうか?」
「ああ。現世での生活とか経験したこともないしね、興味はあるよ」

吉良みたいに貴族として瀞霊廷に生まれ育った者にとって、現世は馴染みのない世界である。
恋次も幼いうちに死んでこちらへ来たので大きなことは言えないが、
一護たちとの交流によって現世はだいぶ馴染みのあるものになっている。
そうでないものにとっては、一体どんなことを行なっているのかよくわからない世界になるのだろう。
改めてそのことを知ったような気がした。

「ちょっと二人とも、そこで何話しこんでんの?」

突如聞こえた声に、二人して声の方を向く。
そこに立っていたのは乱菊で、片手にはしっかりと酒瓶を握っている。

「さっさと戻って来なさいよ。修兵は真っ赤になって寝ちゃったし、相手しなさいよ。
まだまだお酒は残ってるんだから」

宴会が始まってからもうゆうに二時間は過ぎている。
乱菊ははじめからハイペースで飲み続け、どんどん瓶を開けていた。
いつもなら制止に入ってくれる日番谷隊長も、今年は雛森と流魂街に戻っているらしく、今日はいない。

檜佐木が既に酔い潰れているということは、乱菊か自分たちが酔い潰れるまで相手をさせられるのだろう。
同じことに思い到ったらしい吉良も微かに嫌そうな顔をしているが、
断ったら惨劇が待っているであろうことは想像に難くない。

「喜んでお相手させていただきます・・・・」

その言葉に満足したのか乱菊はにっこり笑うと、さっさと来なさいと言って会場の中に戻って行った。
取り残されたようにも見えるが、すぐに行かないと酒攻めにされるのは目に見えている。
恋次は吉良と苦笑を交わすと、出来るだけの早足で会場へと戻った。

出来るなら酔い潰れないでいられるようにと、心中で星に願いながら。



09.12.30 改稿 (08.12.27 Diary)

星と世界と。

昨年日記の方で書いた、死神たちの年越し第二弾。
日記の方では会話のみだったので、地文を足そうと思ったらなんだか違う話に(苦笑)
カットしたところは、また別の形で使えたらなと思っています。